2015年5月11日月曜日

「北海道鑛山畧記」:(三)石炭の「ポロナイ石炭」(疎水法〜石炭分析表)

 
(疏水法)
「ポロナイ」煤田に於ては,坑道上部の石炭掘採のみに従事し,未た其下部に着手せず.故に疏水は自然排水を利用し,堅坑等掘り下る時,其底部に溜澱する處の水を他に通ずるヿ能はざるときは,木筩を用井,人力捲上け器を以て便宜の處に流す.又斜に掘り下る時には,人夫をして石油の空罐を以て漏水を汲み出さしむるのみにして,別に器械等を使用せし事なし.

(空氣流通法)
石炭山に在りては坑内の空氣流通法,最も緊要なることは今更めて喋々するを要せず.況や「ポロナイ」煤田の如き炭層中より多量の可燃「ガス」を發生し,屢々爆發の災に罹り,人を傷るに於ておや.然るに今日までの當山坑氣流通法は唯た數十の風井(風坑)によりて天然の大氣流通を利用せしに止り,未だ器械等を使用せしことなし.加るに坑内は追日深遠となり,随て天然大氣流通を適用するには,風井開鑿に多費を要するのみならず,天氣晴朗ならざる節は可燃瓦斯爆發の危険多く,爲めに屢々採炭を妨けらるヽを以て,今後は風扇器を使用し,通風の便を圖り瓦斯爆發の憂を除かんと目下計畫中なり.

(坑内燈具)
空気流通悪しき坑内に於ては「クラニー」及「デビー」氏の安全燈*を用ひ,通風宜き所に於ては鐵葉製の坑内「ランプ」にて,裸火を取り就業す.安全燈には種油を用ひ,通常「ランプ」には鯨油を用ゆ.

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*:「クラニー」及「デビー」氏の安全燈:安全灯の一種で,最近まで使われていた模様.Googleれば写真なども含めて検索可能.

(石炭運搬法)
坑内各冠に於て既に採掘せし石炭は運炭箱(長さ三尺巾二尺,深さ一尺)に積載し,坑道側石炭漏斗口迄人力を以て引き卸し(自轉車を使用する所は冠用運炭車,長さ四尺八寸三分,巾一尺五寸八分,深さ二尺八寸二分を以て,石炭漏斗口迄運下す.此自轉車に用ゆる綱は周圍二寸半の「マニラロープ」にして,一尺の重量三十二匁なり).坑道より炭車迄は四輪車を以て輸車路上を運送す.
四輪車は長さ四尺五寸,巾二尺五寸,深さ二尺にして,其重量は車輪車軸及鐵臺等は三十六貫目.箱は四拾五貫目にして,合計八拾壹貫目なり.
輸車路は都て二條線にして,石炭運搬の爲め布設せし小鐵道なり.其軌間一尺五寸にして,軌鐵は悉皆舶來品の鋼製丁字形にして,一嗎の重量十二听及十六听の二種を用ゆ.運炭の爲め布設しある輸車路全延長(坑内及硑捨塲車道を除く)六千六百四十六尺にして其内譯左(下)の如し.
  本坑より第二炭庫に至る
   三百三拾七尺五寸          一條線
  本坑より第三炭庫に至る
   百四拾四尺五寸           仝 上
  瀧ノ澤方面より第一及第二炭庫に至る
   四千百五拾尺            二條線
  本澤方面より第一及第四炭庫に至る
   二千拾四尺             仝 上

又,炭庫内輸車路全廷長は千五百〇四尺にして,其内譯左(下)の如し
第一炭庫内
   三百八十三尺            三條線
  第二炭庫内
   五百二十二尺            一條線
  第三炭庫内
   四百十三尺             二條線
  第四炭庫内
   百八十六尺             仝 上

輸車路は四輪車の自轉し得へき丈の勾配を以て布設せし者故,炭車の坑内より出るや二人の囚徒,車上に乗れば(運炭には渾て囚徒を使役す.但し一車に付二人)自己の重力に因り輸車路上を回轉し自から炭庫に至るの装置なり.
本坑より運出する石炭は,直に第二及第三炭庫に入り,本澤方面よりの石炭は二千十四尺の輸車路上を轉下し,瀧ノ澤より來る者と相會し,延て第三及第四炭庫に入る.又,瀧ノ澤方面より運輸し來る石炭の内,西一番第二坑の者は輸車路上,五百二十尺を自轉し,東三番西三番兩坑よりの石炭は七百二十尺の輸車路上を自轉し來り.以上三坑の者相合し第二斜道(長さ三百八十尺,傾斜十二度半にして上部に經六尺の自轉車を据付け之に「マニラロープ」を通し,上より石炭を積みたる四輪車を下し,仝時に下に在る空車を引揚げ,坑内に返るヿを得せしむ.此「マニラロープ」は周圍五吋に〆一尺の重量百目なり)を,下り二百尺を走りて,仝方面他坑の石炭と合し,輸車路上を降るヿ六百六十五尺にして,第一斜道(長さ三百七十尺,傾斜十二度)に達し,前同様自轉車に依て仝所を降り,後ち一千二百八十八尺の輸車路上を運搬して第一及第二炭庫に入る.

(石炭庫)
冬季坑道掘進中,採出せる石炭を貯積すへき爲に設置せし炭庫四棟あり(外に建築中の者一棟あり.桁行二十五間梁間八間)其坪數等は左(下)の如し
  第一炭庫   桁行十九間半     梁間六間
   百十七坪
  第二炭庫   桁行四十五間     梁間六間
   二百七拾坪
  第三炭庫   桁行拾五間      梁間六間
   九拾坪
  第四炭庫   桁行三拾間      梁間七間
   二百拾坪

(撰炭及輸送法)
各坑よりの石炭々庫に入るや皆「ポ」に落し,後精選をなす.「ポ」は積炭箱にして臺車へ石炭積込便利の爲め据付る者とす.箱の高さ拾八尺,幅拾一尺,深さ上部にて一尺五寸,下部三尺にして二十度内外の傾きを有せり.
「ポト」二十二個あり.内九個は,本坑より採出せし石炭を落すため,第三炭庫の側に据付け,其他は第一炭庫内にありて,七個は瀧ノ澤よりの石炭を落し,六個は本澤よりの石炭を落す.以上二十二個の積炭箱には六分目の淘瀉器を据付け塊炭粉炭を分別す.
石炭庫内に於ては,人夫(良民男女並に囚徒を使役す)をして撰炭をなさしめ,塊炭粉炭及ひ磐石の三種に區分し,塊炭粉炭は日々手宮へ輸送し,販賣引受人に渡し,磐石は適宜の場處に放棄す.
既に精撰せし石炭は臺車(長さ二十六尺,巾八尺,深さ一尺五寸)に積込み「ポロナイ」より鐵道に因て「テミヤ」迄運送す(石炭を臺車へ積込むは請負にして,其賃錢は壹噸に付金壹錢貳厘八毛なり).石炭「テミヤ」に至れば船積み便利の爲め,直に棧橋に卸し或は石炭庫内に貯積す.

(石炭價格及運賃)
販賣者と特約に係る石炭山元價格,並に「テミヤ」迄の運賃は左(下)の如し.


(石炭分析表)
明治十七年舊東京大學に於て幌内石炭を分析せしに其結果は左表(下表)の如し.


(続く)
 

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