2012年2月7日火曜日

動物名考(12) モルモット

モルモット


Cavia porcellus (Erxleben, 1777)


[Guinea pig, Cavy]


「モルモット」は困った言葉です.
モルモットは,実は日本語としかいいようがないのです.

“モルモット”が,日本に初めて輸入されたとき,まったく別の生きものである「マーモット[Marmot]」と勘違いされたうえで,訛って「モルモット」になったという説があります.したがって,この生きものは,英語でも「マーモット[Marmot]」とはいいません.
同様に,英俗名の「ギニアブタ[Guinea pig]」も,アフリカ経由の船でヨーロッパに持ち込まれたための誤解であり,“ギニア・ピッグ”はギニアには生息しません.
なんちぅ,不幸な動物だ((^^;).
和俗名は,別に「テンジクネズミ」ともいいます.こちらのほうが競合する名前,および混乱を誘発する名前がないのでいいのですが,困ったことに,「天竺」(=インド)に生息しているわけではないので,適切な名称とはいいがたい.
なんちぅ,不幸な動物だ((^^;).

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ちなみに,マーモット(アルプスマーモット)の分類は以下.

ordo: RODENTIA Brandt, 1855[齧歯類]
 subordo: SCIUROMORPHA[リス様類]
  familia: SCIURIDAE Fischer von Waldheim, 1817[リス科]
   subfamilia: XERINAE Osborn, 1910[ジリス亜科]
    tribus: MARMOTINI Pocock, 1923[マーモット族]
     genus: Marmota Blumenbach, 1779 [type: Mus marmota Linnaeus, 1758]
      Marmota marmota (Linnaeus, 1758)[アルプスマーモット; Alpine marmot]以下略

marmotは,もともと,ラテン語のmus montanus=「山のネズミ」だったのですが,ロマンシュ語の murmontを経由して,フランス語のmarmottになり,英語のmarmotになったといわれています.
それが,なぜ,属名すなわちラテン語化したときにMarmotaになったのかは不明.Musは《男性名詞》ですから,本来種名はmarmot-usだと思うんですが
蛇足しておけば,語尾-aは《女性形》.

どこかに間違いがあるのですかね….

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さて話を戻して,モルモットの上位分類は以下のようです.

ordo: RODENTIA Bowdich, 1821[齧歯目]
 subordo: HYSTRICOMORPHA Brandt, 1855[豪猪形類(山嵐形類)]
  infraordo: HYSTRICOGNATHI Tullberg, 1899[豪猪顎類(山嵐顎類)]
  infraordo: CAVIOMORPHA Wood, 1955[天竺鼠形類]
   familia: CAVIIDAE[テンジクネズミ科]
    subfamilia: CAVIINAE[テンジクネズミ亜科]
     genus: Cavia Pallas, 1766 [テンジクネズミ属]

目RODENTIAは,“ネズミ”目などとされている場合がありますが,RODENTIAという語のどこにも「ネズミ」の意味はありません.こういう混乱を起こすようなことは,やめてほしいと思うものです.
Bowdich (1821)の原著が入手不能ですので,どういう意味でつけたのか正確なところはわかりませんが,元は,ラテン語の「ロード[rodo]」=「齧る」と,《合成前綴》「デントゥ・[dent-]」=「歯の」を組み合わせたものに,《接尾辞》-ia=《中複》「~に属するものども」を合わせたものだと思います.したがって,昔から使われている「齧歯類」が正しい.

亜目HYSTRICOMORPHAはhystrico-morphaという構造です.
《合成前綴》hystrico-は,元はギリシャ語の[ὁ/ἡ ὕστριξ]」=《男女》「ヤマアラシ(porcupine)」で,その属格形[τοῦ/τῆς ὕστριχος]をラテン語綴り化したもの.
《合成後綴》-morpha《中複》も,元はギリシャ語で[ἡ μορφή]=《女》「形」をラテン語綴り化した上で,《中性・複数》語尾化したもの.
合わせて,「ヤマアラシ形類」ですが,ここでは漢字を使って「豪猪形類」としてみました.
「豪猪(やまあらし)」もしくは「箭猪(やまあらし)」は中国語らしいのですが,よくわかりません.
和漢三才図会にでている「豪猪」は(これは「本草綱目」からの引用ですが),絵はほとんどイノシシですが,「豪猪」を「やまあらし」と読ませていますし,説明は「ヤマアラシ」です.

下目は,上記したように二説あり.わたしにはどちらがリーズナブルなのか判断できませんので併記してあります.
HYSTRICOGNATHIはhystrico-gnathiという構造で,上記《合成前綴》hystrico-に,《合成後綴》-gnathi《男複》を合成したもの.意味は「ヤマアラシの顎を持つものども」です.ここでは,漢字を使って「豪猪顎類」にしてみました.
CAVIOMORPHAはcavio-morphaという構造です.cavio-は不詳.元はポルトガル語のsavia = ratが語源とか.語源はネズミですが,これは「テンジクネズミ属」に与えられた属名Caviaなので,「テンジクネズミの」として扱います.-morphaと合わせて「天竺鼠形類」としておきます.

科名CAVIIDAEは,もちろん,cavi-idaeで「天竺鼠の科」ですが,科レベルまで下がると,漢字表記はどうかと思いますので,「テンジクネズミ科」にしておきます.

CAVIIDAE-CAVIINAE-Caviaは同じ語源なので省略.

なお,Caviaが語源の英俗名Cavyは,Caviaには用いられていず,クイやヤマクイに用いられているという不思議.

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Cavia Pallas, 1766は,模式種が [type: Cavia cobaya Pallas, 1766]となっています.ところが,C. cobaya Pallas, 1766はMus porcellus Linnaeus, 1758の同物異名と判断されているらしく,結局,模式種はCavia porcellus (Linnaeus, 1758)になります.
なお,消えてしまった種名cobayaは不詳.
南米原住民の言葉で,Cavia porcellus (Linnaeus, 1758)そのものを指す言葉らしいです.それだったら,和俗名は「コバヤ」にするべきですよね.

porcellus は,ラテン語で「飼いブタ」意味する「ポルクス[porcus]」に《縮小詞語尾》-ellusがついたもの.つまり,「子ブタ」です.
属名のCaviaの語尾が-aなので,一見女性名詞のように思え,種名と“性の不一致”をおこしているように見えます.しかし,Caviaはもともとラテン語ではないので,判断不能.
下に,Caviaに属するとされる種のリストを挙げておきますけど,種名が《男性形》と《女性形》が入り乱れていますね.こんな場合は,属名Caviaを提案した人が,その属名が男性なのか女性なのかを指示してあるはずなのですが,原著が入手できなければ,こんなこともおきますね.さて,原著ではどうなっているのでしょうかね.

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Caviaに属する種については,下記のものがあるとされています.怪しげなのもあるようです.

genus: Cavia Pallas, 1766 [type: Cavia cobaya Pallas, 1766 (= Mus porcellus Linnaeus, 1758)]「テンジクネズミ属」
 Cavia porcellus (Linnaeus, 1758) [モルモット ; Domestic Guinea Pig]: wild ancestor unknown
 Cavia aperea Erxleben, 1777 [Brazilian Guinea Pig]: widespread east of the Andes
 Cavia fulgida Wagler, 1831 [Shiny Guinea Pig]: eastern Brazil
 Cavia tschudii Fitzinger, 1867 [Montane Guinea Pig ]: Peru south to northern Chile and north-west Argentina
 Cavia guianae Thomas, 1901[often considered a synonym of C. porcellus]: Venezuela, Guyana, Brazil
 Cavia anolaimae Allen, 1916 [often considered a synonym of C. porcellus]: Colombia
 Cavia magna Ximenez et al., 1980 [Greater Guinea Pig]: Uruguay, south-east Brazil
 Cavia intermedia Cherem et al., 1999 [Intermediate Guinea Pig]: Moleques do Sul islands, Santa Catarina, Brazil, first described in 1999
 

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