2011年11月27日日曜日

Psammosteid lineage

[Mikko's Phylogeny Archive]から,“無顎類”の分類を拾って,整理しようとしてきたのだけれど,無理がありました.

上記は,基本的にクラディズムに則っていて,進化の道筋と思われるものをあらわしているので,分類じゃあ無いことが混乱するもと.
二つ目は,web上の記述であって,正式な論文じゃあ無いので,いい加減さが目立つ.根拠がわからない.知らないうちに訂正されていても,わからない.
などなど.

ま,たくさん学名のサンプリングができたからいいか.

それと,検討しているうちに,いくつかの重要な論文のpdf-fileを入手することができ,非常に面白いものを見ることができたので満足.
ネット上では,たくさんの論文のpdf.-fileを見ることができます.
博物館系で提供されているものは,基本的にfreeだし,text付きなので,ものすごく利用価値があります.一方,学会系のものは,ほとんどが有料なので,金出してまで見たくないという気にさせる.見るまで,中身はわかりませんからね.役に立たないかもしれない.
某国地質学会で出してる論文のpdf.はtextが暗号化されているので,使い道がありません.せっかく高い予算を取ってやってるのだろうけど,将来的には結局「意味ない」ものになるでしょうね.

それはともかく,面白い図があったので,一つ.

原図はTarlo, L. B. (1962)から.



基本になっているのは,真ん中下部のSchizosteus です.
Schizosteus は schiz-osteusという構造で「裂けた」+「~骨《男単》」という意味.絵は「頭甲部」です(尻尾=尾部が描かれていない)が,絵の下部(=頭甲部としては背の後方)に切れ目がありますね.これを,「裂けた」と表現したのでしょう.

これが,二つの系統に分かれ,一方は,「裂け目」が発達します.そして,PycnosteusTartuosteusになる.
Pycnosteusはpycn-osteusという構造で,「密な」+「~骨《男単》」という意味.
TartuosteusはTartu-osteusという構造で,「Tartu(エストニア二番目の都市)」+「~骨《男単》」という意味.
共に「-osteus」という語尾がついていますから,しっかりした甲板の持ち主なのでしょう.

さて,もう一方は,Schizosteusの甲板を持ちながら,頭甲部の大部分が,なにやらイボイボの飾りで覆われてきます.その名もPsammolepis
Psammolepisはpsammo-lepisという構造で,「砂の」+「鱗」という意味.イボイボのことを「砂のよう」と表現したのですかね.同じ,Psammolepisでも,Schizosteusの甲板を遺したものと,無くなってしまったものがあるようで,完全に無くなるとPsammosteusと呼ばれるようですね.
ちなみに,Psammosteusはpsamm-osteusという構造で,「砂の」+「~骨《男単》」という意味です.

これだけでも,無顎類は多様で,さまざまな進化の実験があったようだということがわかって…もらえませんか…,ねえ~~.

2011年11月16日水曜日

KIAERASPIDOIDEA

KIAERASPIDOIDEA (Stensiö, 1932)(たぶん,「目」)
下に,[Mikko's Phylogeny Archive]に表示されているものを,編集したものを示しておきます.
悲しいかな,これは分類ではなく,進化系統をあらわしたクラディズムのようです.
どうもクラディズムは,しっくり来ない(^^;.

ま.単に構成員のリストとして理解しておきます(判断に困る場合も多々ありますが…).

---
KIAERASPIDOIDEA (Stensiö, 1932) Afanassieva, 1991
├ † Didymaspis
└ † Kiaeraspididae Stensiö, 1932
  ├ † Kiaeraspis L.Dev. Spits.
  └ ? † Norselaspis glacialis Janvier, 1981 (sedis mutabilis)
    └ † AXINASPIDOIDEA Janvier, 1981a
     ├ † Nectaspis L.-M.Dev. Spits.
     └┬ † Axinaspis L.Dev. Spits.
      └┬ † Acrotomaspidinae Janvier, 1981a
       ├ † Acrotomaspis L.Dev. Spits.
       └ † Gustavaspis

---from [Mikko's Phylogeny Archive]

Sansom (2009)にKIAERASPIDOIDEAの構成員の復元図がでていたので引用しておきます.やっぱりなにか,微笑ましいです((^^)).




さて,Kiaeraspisは「Kiaer, J.」+「丸い楯」の合成語です.
Kiaer, J.は,ノルウェー人古生物学者らしいですが,不詳です.(いわゆる)“無顎類”についての論文をたくさん出しているようです.

学名に(属にも,種にも),人名が使われるのはよくあることです.
しかし,いろんな意味で,あまりセンスがよろしいとは思われませんね.
普通は何らかの献辞として使われるのですが,良く意味を考えてみてください.この場合は,「Kiaer, J.」+「丸い楯」ですよ.-aspis=・「(小さな)丸い楯」は,“無顎類”の全体の形状からよく使われる「言葉」で,この場合は「ある種の“無顎類”」そのものを意味していますが,その意味からいえば Kiaer氏は(古生物学者なのに)「丸い楯」をもっているわけです.

おなじようなセンスの命名に,アモンナイトでよく使われる「~ケラス」というのがあります.
-cerasは「~の角」という意味で,人名にくっつけると,(たとえば)Mantellicerasは白亜紀の地層に多産する特徴的なアンモナイトですが,これはもちろん,Gideon A. Mantell (1790-1852) への献辞として造られた属名です.
ところが,その意味を考えると,「マンテルの角」となり,マンテル氏には「角」があったことになり,本当に献辞なのか皮肉なのか,よくわからないという気持ちになります.

国際動物命名規約にも,「属グループの名称の複合名に人名を用いることは好ましくない」(ICZN, add. D-15.)とありますが,常識的にいっても恥ずかしい命名の仕方だと思いますね.
既成事実として,どんどん使われてますしね.

とかく,人名を学名に用いるのは,さまざまな問題を引き起こしますし,命名センスからいっても「どうかな?」とい感じるのが多いですね(感じるのは人の勝手だといわれればそうですけど(^^;).
一方で,アマチュア・化石ハンターの世界では「発見した人には,名前をつけてもらう権利がある」などという妙な“伝説”があり,関係した研究者が「あっけ」にとられる場合も少なくないと聞きます.「新種である」という根拠もないのに,上司から「~さんの名前をつけろ」と強要された学芸員もいるとか.
いろんなところから「圧力」がかかる((--;).


ついでに,意味がわかる学名のいくつかについて.
まずは,Didymaspis.
Didymaspis = didym-aspis=「二連の」+「丸い楯」
こういう命名の仕方では,その形がイメージできますね.残念ながら,復元図の良好なものは見あたりませんでしたが,Müller (1985, p. 35)には,その一種の復元図が示されており,それでは,わずかに「ひょうたん型」をした形が示されています.この「ひょうたん型」が「二連の」を意味しているのかもしれません.

つぎに,Norselaspis.
英語で,Norselandは「Norse人の国」という意味ですが,これは「ノルウェー(Norway)の異称」だそうです.
つまり,Norselaspisは「ノルウェーの」+「丸い楯」ということ.「ノルウェー産の“無顎類”」という意味でしょうね.

三番目は,Axinaspis.
Axinaspis = Axin-aspis=「斧の」+「丸い楯」
Sansom (2009)の図に,Axinaspisの一種がでていますけど,「斧」に関係あるように見えるでしょうか?
石器時代の「石斧」に見えないこともないですけど….

最後は,Acrotomaspis.
Acrotomaspis = acrotom-aspis=「切り離された」+「丸い楯」
「希語辞典」には[ἀκρότομος]は「鋭く切り離なされた;断裂の」というような意味ででていますが,acro-<[ἄκρος]は「頂点」で,tom-<[τόμος]は「切ること」ですから,「(頂点があると考えられるものの)頂点を切った(形)」と考えるのが妥当なんでしょう.
Sansom (2009)の図のにAcrotomaspisの一種が描かれていますが,そういう風に見えるかどうか
なお,Sansom (2009)の図にでているのは「頭甲部」のみで,本来は下側に尾の部分がついているべきものです.接合部が多いので,化石としては外れていることが多いのでしょう.復元図も,だいたい省略されていることが多いですね.お間違えのないよう.

ほかは,判らないので,ご容赦.

2011年11月13日日曜日

TREMATASPIDOIDEA

TREMATASPIDOIDEA (Woodward, 1891)(たぶん《目》)
下に,[Mikko's Phylogeny Archive]に表示されているものを,編集したものを示しておきます.
残念ですが,このグループは詳細が不明.
示された「種」の復元図も,ほとんど公開されていません.
Müller (1985)にTremataspis sp. の復元図がでていたので,引用しておきます.





Tremataspisはtremat-aspis=「孔のある」+「丸い楯」という意味です.
なにが「孔」なのかはよくわかりませんが,たぶん,Abb. 19.右の「下面図」にみえる鰓孔の開口部のことではないかと推測します.Abb. 20.は側面観ですが,前方下部に半円状にならんだ鰓孔が見えますね.
ただ,これがこのグループ全体に共通な特徴なのかというと,これは,情報不足で判りません.
もう一つ,この二つの復元図には頭甲部しかなく,本来あるはずの尾部が示されていません(Abb. 20では破線で示されている).たぶん,図示できるほど保存に恵まれた標本がなかったのだろうと思われます.
ま,そんなことが,ネット上にも復元図がほとんど見あたらない理由かもしれません.
これも情報不足でなんとも.

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TREMATASPIDOIDEA

TREMATASPIDOIDEA (Woodward, 1891) Afanassieva, 1991 sensu Sansom, 2009
├ †Tyriaspis U.Sil. Eu.
│ └ †T. whitei
├ † Saaremaaspis [Dasylepis; ?Dictyolepis; Rotsikuellaspis obrutchevi Robertson, 1938] U. Sil. L. Dev. Eu.
└ † Tremataspididae Woodward, 1891
 ├ †Aestiaspis
 ├ †Dartmuthia [Lophosteus] U.Sil. Eu. [Dartmuthiidae]
 │ └ † D. gemmifera
 └┬─ †Timanaspis U. Sil. EEu. L. Dev. Eu.
  └┬ Tremataspidinae Woodward, 1891
   │ ├ † Oeselaspis [?Trachylepis] U.Sil. Eu.
   │ └ † Tremataspis Schmidt, 1866 [Odontododus, Stigmolepis] U. Sil. Eu.
   └┬ † Dobraspis
    └┬ † Tannuaspis levenkoi Obruchev, 1956 [incl. Tuvaspis margaritae Obruchev, 1956] L. Dev. NAs.
     └ † Sclerodus [Eukeraspis] L. Dev. Eu. [Sclerodontidae]

---from [Mikko's Phylogeny Archive]

いろいろ調べていたら, [Mikko's Phylogeny Archive]とは違う見解のようですが,Sansom (2009)で,THYESTIIDA Berg, 1940としてまとめられているグループの中に,TREMATASPIDOIDEAに属する連中の復元図がでていましたので添付します.
二段目と三段目の復元図が上記TREMATASPIDOIDEAに属する連中ですね.
頭甲部を上から見たものです.
なんか,微笑ましい(^^).

2011年11月11日金曜日

FURCACAUDIFORMES

FURCACAUDIFORMES Wilson & Caldwell, 1998(たぶん《目》)

試行錯誤の一つ.
情報が少ないので,FURCACAUDIFORMESという“塊”で考えます.

一応,分類は以下のよう.
from [Mikko's Phylogeny Archive]から,編集しています(誤記と思われる部分を訂正).

---
After Wilson & Caldwell, 1998

FURCACAUDIFORMES Wilson & Caldwell, 1998 (“fork-tailed thelodonts”)
├ † PEZOPALLICHTHYIDAE Wilson & Caldwell, 1998
│ └ †Pezopallichthys ritchiei Wilson & Caldwell, 1998
└ †FURCACAUDIIDAE Wilson & Caldwell, 1998
  ├ †Cometicercus talimae Wilson & Caldwell, 1998
  ├ †Drepanolepis maerssae Wilson & Caldwell, 1998
  ├ †Sphenonectris turnerae Wilson & Caldwell, 1998
  └ †Furcacauda Wilson & Caldwell, 1998 [Sigurdia; Canonia Turner, 1991]
    ├ †F. fredholmae Wilson & Caldwell, 1998
    └ †F. heintzae (Dineley & Loeffler, 1976) Wilson & Caldwell, 1998 [Sigurdia heintzae Dineley & Loeffler, 1976; Canonia? heintzae (Dineley & Loeffler, 1976) Turner, 1991]

---from [Mikko's Phylogeny Archive]


FURCACAUDIFORMES =「二股尾形類」
原著が見られないので,詳細不明.
北米・シベリアのシルル系からデボン系から産出するようですね.
概形は,縦長で熱帯魚のよう.長短の矢印形.イカみたい.
前方に口があり,鰓が開口する.
尾の形に特徴があり,薄膜でつながったフォーク状をしています.情報不足で,淡水性とか海水性とか判らない.

Wikipediaでいくつかの種の復元図が公開されていますが,あまりにもパタン化されていて,問題が多いでしょう.その証拠に,復元図をグレースケールに変換すると,どれも同じに見える.

でも,とっても愛らしい姿をしているのも事実です.

type genusのFurcacaudaはFurcacauda = furca-cauda=「音叉型の」+「尾」という意味になりますか.
Furcicaudaのほうがいいような気がしますが.
また,furcaは「二股のフォーク;音叉;二股の支柱」を意味する言葉ですので,復元図に見るような“多股”とはちょっとニュアンスが違うような….上下二つが二股で,間にあるのはだだの飾りかな?
実際の化石を見てみたい.

2011年11月7日月曜日

無顎類が面白い

「無顎類」とは,classis: AGNATHA Cope, 1889に与えられた日本語・学術用語です.
いいなおすと,米国の古生物学者エドワード=D.=コープ(1840-1897)が,動物なのに顎をもたない奇妙な生物(+古生物)たちを,一つのグループにまとめ,それにAGNATHAという学名を与えました.1889年のことです.それを和訳したのが「無顎類」なのです.

原著が見つからないので,そこにどういう定義が書かれているのかは判らないのですが,いずれにしろ,クラディズムが主流の現代分類学では,意味のある用語とは考えられていないようです.
「顎をもつ」という特徴では,一つのグループを造ることができますが,「顎をもたない」という特徴では,一つのグループ(分類群)を造るとは考えられていないからです.

逆にいえば,動物が顎をもつまでに,さまざまな試行錯誤があり,そのさまざまな試行錯誤の結果が「AGNATHA=無顎類」として,認識されたということです.
つまり,さまざまな奇妙な生物たちが「そこにいる」といえます.


現代的な情報源としては,WikipediaWikispeciesがありますが,そこに書かれている情報は,非常に曖昧で不正確なので,よくわかりません.
しかし,Mikko's Phylogeny Archiveで,ざっとその世界を眺めてみると(学名が並べてあるだけなので,生理的に拒否されるでしょうけど(^^;),凄まじい量の“試行錯誤”があったんだ,と実感できます.

その学名を,どれか一つコピー&ペーストしてGoogleしてみれば(だいたい,いい情報にあたらないことの方が多いですが),たまに,面白いものがヒットします.画像検索でやるのが,判りやすいですね.
ヒットしたそのどれもが,実に奇妙な形をした“魚?”たちです.
じつは,もう「魚類」という言葉も,科学的には「死語」なのです(クラディズムが原因です).


どうして「無顎類」をテーマにした本が書かれないのかと不思議に思うぐらい,奇妙で大胆な連中がそこにいます.
これをテーマにした本が書かれれば,きっと,グールドの「ワンダフル・ライフ」とおなじようなヒット作となること請け合いなんですけどね.
   
 

2011年11月4日金曜日

ワラジムシとダンゴムシ pt. IV

Porcellio scaber Latreille, 1804は,日本では「ワラジムシ」と呼ばれています.

porcellioは,英語では「woodlouse, sowbug」を意味するラテン語で,日本語に訳すとこれは「木シラミ,ブタ虫」ですが,現地の「ワラジムシ」を意味する言葉です.
ただし,ラテン語のporcellio自体が何を意味しているかは,例によって「レキシコン」には書かれていません.


ちょっと違った方向から,考えてみます.
ラテン語では porcusは「ブタ」を意味しています.
Porcus marinusならば「海のブタ=イルカ」なんだそうです(注:これは学名ではなく,ラテン語の熟語です).

「紅の豚」の主人公(主豚公?)は「Porco Rosso」.
これはイタリア語ですが,日本語になおすと「紅いブタ」(英語ならば「Pork Red」?).もちろん,porco は porcus から来ているのでしょう.英語のporkもね.

porcus の語根は porc-.
これに《縮小辞》の-ulusをつけたものが,porc-ulus = porculus=「ブタの」+《縮小詞》=「ブタの小さなもの」.
たとえば,porculus marinus は,「海の若ブタ」=(やっぱり)「イルカ」.

porcus の語根は porc-.
これに別の《縮小辞》である-ellusをつけたものが,porc-ellus = porcellus =「ブタの」+《縮小詞》=「ブタの小さなもの」.こちらも同じ.

ここで,porcellusを語根化するとporcell-ですが,前出 porcellioの語根でもありますね.
そうすると,porcell-io = porcellio=「ブタの小さなものの」+《行為,その結果》という構造になりますが,ちょっと意味がイメージできません.-ioが《動詞》につくなら,イメージできるのですがねえ.
もしくは,-ioではなく,-ionならば,porcell-ion = porcellion=「ブタの小さなもの」+《縮小詞》=「本当にと小さいブタ」….
なにか,判りそうで判らない,もどかしさ.
古代ローマ人は,「ブタ」というと,なにをイメージするのか.それが判れば,なにかヒントがつかめそうですが….


しょうがないので,先に進みます.
種名のscaberはラテン語の《形容詞》で,「ザラザラした」という意味の《男性形》です.特殊な意味で「疥癬にかかった」という意味で使われる場合もあるようです.

ということは,Porcellio scaber=「属名」と「種名」をあわせて,「ザラザラしたワラジムシ」もしくは「ザラザラした子ブタ」.一番それらしいのは,「疥癬にかかった子ブタ」.
う~~ん.あまりセンスのいいネーミングとはいいがたい.それとも,なにか深い意味があるのか….
 

2011年11月3日木曜日

ワラジムシとダンゴムシ pt. III

Armadillidium vulgare (Latreille, 1804)は,日本では「オカダンゴムシ」と呼ばれています.

属名のArmadillidium という語は Armadill-idiumという構造で,「アルマジロの」+《縮小詞》=「アルマジロの小さなヤツ」という意味.
なるほど,「オカダンゴムシ」が,その名前のように「丸まる」のが,「アルマジロ」そっくりですね.こういう防御形態をとる動物は,動物分類の枠を越えて共通しているものがありますが,そういうのを「平行進化」と説明する場合があります.
進化系統上は遠い動物でも,似た環境に適応する場合,似た体の構造をとる場合があるということです.つまり,外見の類似だけで生物分類をおこなうと,思わぬ落とし穴が待っているというわけです.
ま,アルマジロとダンゴムシを生物として近いと思う人はいないでしょうけどね((^^;).

なお,語根 Armadill- の原形は armadillo ですが,これはスペイン語らしい.
もともとは,ラテン語で armatus-illus =「武装した」+《縮小詞》=「武装(この場合は「防御」がメインですね)した小さなもの」だったらしいのですが,スペイン語が入ってarmad(o)-illoに変化しているらしいです.
わたしはスペイン語はわかりませんので,なんですが,スペインの「無敵艦隊」のことを,確か「アルマダ(Armada)」といってましたから,たぶん,あっていると((^^;).


種名のvulgareは,ラテン語で,「ウルグス(vulgus)」=「集団,多数;大衆.群衆」の形容詞で《中性形》.「大衆に属する」という意味で,「一般的な,普通な」の意味が強いものです.
vulgare にはvolgaris というバージョンがあります.volgarisは,なんとなく,ドイツの大衆車「フォルクスワーゲン(Volks-Wagen)」をイメージしてしまいます.「フォルクスワーゲン」の「フォルクス(volks)」は,「大衆の」という意味ですから,たぶん関係があるんでしょう.

さて,属名と種名をあわせると,「普通な,アルマジロの小さなヤツ」ですから,現地(タイプ・ロカリティ(type locality))では,普通にいるヤツだったのでしょう.
イヤ,名詞の「集団,多数」の意味が形容詞化した,「(いつも)たくさんいる,アルマジロの小さなヤツ」の方が,リアルですね.
 

2011年11月2日水曜日

ワラジムシとダンゴムシ pt. II


さて,ついでですから,学名の意味を探っておきましょう(こっちが,わたしの興味あるところ).

いわゆる「ホンワラジムシ」と呼ばれているOniscus asellus C. Linnaeus, 1758から.

Oniscusは,もとはギリシャ語で「オニスコス[ὁ ὀνίσκος]」がラテン語化したもの.その意味は「(海に住む)タラ」のこと(意外!).別に,「woodlouse」の意味とあります.「woodlouse」は「woodlice」の複数形で,意訳すると「木のシラミ」で,具体的にはギリシャ付近に生息する“ワラジムシ”のことを指しているといいます.もっと,深い意味があるかどうかは記述がありません.
もう一つ,「windlass, crane」という意味がありますが,これは「巻き揚げ器」とでもいいますか,梃子/滑車の応用で,少ない力で重たいものを持ち上げる道具を指しているらしい.

こんなに違う三つの意味があるということは,何か元々の意味がありそうですが,「一番信用できる」とされるこの「ギ英辞典」にはなにもでていません.
これは,じつはわれわれが悪い.
「辞典」というと「言葉の意味」が書かれていると思いがちですが,「ギ英辞典」としばしば訳されるこの“辞典”は,ほんとうは「Lexicon」なのです.
言葉通りの「レキシコン」は「ディクショナリー」ではなくて,「古典」のどこにその言葉が使われているかという「リスト」に過ぎないので,たまたま見つかっているその「古典」の著者が,言葉の誤用をしていたとしても,「レキシコン」の編集者には責任がないというわけです.
で,われわれは「レキシコン」と「ディクショナリー」の区別をつけずに,「辞典」と訳して使っているわけです.

そんなわけで,「オニスコス[ὁ ὀνίσκος]」が示す意味は曖昧.
さて,この「オニスコス[ὁ ὀνίσκος]」はラテン語化していて,oniscosもしくはoniscusとして使われていたようです.
ギリシャ語からラテン語化した場合,語尾の[-ος](-os)は[-us]になりますが,両方の形があるということは,古い形を残しているということかもしれません.
しかし,「ラ英辞典」では,その意味は「wood-louse, milleped」しかありませんので,「希語」と一対一ではない.あ,「wood-louse」は上記してありますが,「milleped」は,もちろん「ヤスデ」のことです.
ということは,古代ローマ人には「ワラジムシ」も「ヤスデ」も,区別をつける必要の無いものだったということですかね.
ちなみに,「ワラジムシ」も「ヤスデ」も腐食性で,ヤスデも脅すと「丸まる」性質のあるものがいますよね.

話を戻します.
Oniscus asellusの種名の方のasellusは….
こちらは,ラテン語で「子ロバ,若ロバ」のことですが,不思議なことに,ここでも「タラ,コダラ」という意味が出てきて,古代ローマ人が「好んで食した」というようなことが書いてあります.
「ワラジムシ」と「タラ」の不思議な関係が成立していますね.

ちなみに,asellusはasinusの派生語でasellus = as-ellus=「ロバの」+「小さいもの」という構造.asinus は as-inus=「ロバの」+「所属するもの」という構造ですから,as-は「ロバ」を意味する語根.
英語のass=「ロバ」はこれを借りているわけですね.

も一つちなみに,asellusはこれを属名とする生物がいるようです.
それはAsellus aquaticus (C. Linnaeus, 1758)といい,ネット上で画像を検索すると,これもワラジムシそっくりで,ヨーロッパに分布する水棲甲殻類だとのこと.なるふぉど,「水棲のワラジムシ」という意味ね.

話を戻します((^^;).
さて,そういうことで(何が?(^^;),Oniscus asellusは「子ロバのワラジムシ」….
意味がわからん(--;.なにか,深~~~い意味が,まだありそう.
 

2011年11月1日火曜日

ワラジムシとダンゴムシ

facebook上で,専門家に,道内での「ダンゴムシ」の北上について訊ねたのだけれども,どうやら,「×××,ヘビに怖じず」だったようです.まったく申し訳ない.

どういうことかというと,「ダンゴムシ」や「ワラジムシ」という名は「俗称」に過ぎず,ある「種」に対応した言葉ではないからです.“虫”の世界ではありがちですが.

たとえば,「ダンゴムシ」はoredr ISOPODA Latreille, 1817(目 等脚類)を構成する生物のうち,陸棲で刺激を受けると丸くなる習性をもつもののことだそうです.
しかし,これが,分類学上の単位と一致するのかどうかは明瞭ではありません.

一方で,一般にダンゴムシと呼ばれている生物には,メジャーなものがあり,それは学名でArmadillidium vulgare (Latreille, 1804)というもので,これには「オカダンゴムシ」という和名が与えられているようです.
まあ,われわれ(凡人:非“虫”人)が「ダンゴムシ」というと,だいたいこれを指しているというわけですね.

ところが,プロにとっては,別種,別属,別科にも“ダンゴムシ”が居るのだから,わたしのように無知な質問をするものがいると,戸惑うというわけですね.
あ,もちろんそのプロのかたは,そんなことはおくびにも出さず,親切に回答してくださっています.


ついでに,調べたところを蛇足しておくと,「ワラジムシ」も似たようなことがあり,われわれが,「ワラジムシ」というと,だいたいが,Porcellio scaber Latreille, 1804という種のことを指しているのですが,一方で,suborder ONISCIDEA Latreille, 1802(亜目 ワラジムシ類)に含まれる大部分も「ワラジムシ」と呼ばれているそうです(ざっと,写真を見たところ,わたしには,ほとんど区別がつかなかったですが).

だったら,俗称を和名として「一種」に対応させればいいようなものですけど,現状はそうなっていないらしい.
これはまあ,分類が混乱しているというよりは,分類研究は手つかず状態をようやく脱皮し,ちょっとの違いで「これも新種,これも新種」ということで群雄割拠中という状態らしい(ほかにも,「ワラジ~系」は移入種が多いといわれながら,在来種が居たのかどうかも定かでないとか,あるみたい).
日本だけでも,何十種いるとも,何百種いるともいわれているようです.

だいたい,“虫”の世界は,わずかな違い,たとえば,色とか模様とかが少し違うということで「新種」として報告されることが多いのですが,わたしのように,(昔のことですが)化石を扱っていたものにとっては「そんなに違いがあるのかいな」と感じることもシバシバです(化石には,「色や(それが造り出す)模様」は,ほとんどない).

まあ,それは研究しなければ,あるいはできなければ,混乱があるのは致し方ないことですし,研究が始まったとしても開始初期の混乱(見かけ上,起きる)というのは,また仕方のないことなのです.
さらに,そういうところにお金を出すのは「無駄だ」と考えているエライ人が多い情けない国なので,研究費は出ても涙金.インプットがなければ,アウトプットもない.常識.
誰かが,ノーベル賞でも取れば,秘技「手のひら返し」があるんですけどね.

もう一つ,登場人(虫!)物.
学名をOniscus asellus C. Linnaeus, 1758というのがいまして,こいつはどうやら欧州出身で日本にはいりこんできたものらしい.こいつは,適当なのかどうなのか「ホンワラジムシ」という「和名」をもらっています.たぶん,suborder(亜目)名の語根に使われているonisc-の元だから,「ホン…」とつけられたのでしょう.

さて,この三人の(三つの)登場人物の関係はどうなっているのかというと,以下にあるweb pageにでていた分類表から抜粋したものを示します.

order ISOPODA Latreille, 1817
└ suborder ONISCIDEA Latreille, 1802
 └ infraorder LIGIAMORPHA Vandel, 1943
  └ section CRINOCHETA Legrand, 1946
   ├ superfamily ONISCOIDEA (Latreille, 1802)
   │└ family ONISCIDAE Latreille, 1802
   │ └ genus Oniscus C. Linnaeus, 1758
   │  └ Oniscus asellus C. Linnaeus, 1758(ホンワラジムシ)
   └ superfamily ARMADILLOIDEA Brandt, 1831
    ├ family ARMADILLIDIIDAE Brandt, 1833
    │└ genus Armadillidium Brandt, 1833
    │ └ Armadillidium vulgare (Latreille, 1804)(オカダンゴムシ)
    └ family PORCELLIONIDAE Brandt & Ratzeburg, 1831
     └ genus Porcellio Latreille, 1804
      └ Porcellio scaber Latreille, 1804(ワラジムシ)

こうなると,われわれ一般人にとって,もっとも目につく特徴である「丸くなる」というのは,分類学上では,ほとんど意味が無いようです.実際に,「ホンワラジムシ」と「ワラジムシ」の画像をいくつか見てみましたが,これといった違いはわかりませんでした.
一方,「ワラジムシ」に近い関係にある「オカダンゴムシ」は,何度もいうように「丸まる」という特徴でもって,“ホンワラジ”や“ワラジ”とは異なっているように見えるんですけどねえ.