2011年7月29日金曜日

学名は難しい(3)

平嶋義宏「生物学名概論」がしきりに持ち上げていたドイツ人のロイニスの本を見ることができました.

その本とは,
Leunis, J., 1883, Synopsis der thierkunde. Ein handbuch für höhere lehranstalten und für alle, welche sich wissenschaftlich mit der naturgeschichte der thiere beschäftigen wollen (Volume 1).
Hahn'sche Hofbuchhandlung, Hannover.
および
Leunis, J., 1886, Synopsis der thierkunde. Ein handbuch für höhere lehranstalten und für alle, welche sich wissenschaftlich mit der naturgeschichte der thiere beschäftigen wollen (Volume 2).
Hahn'sche Hofbuchhandlung, Hannover.
です.

中を見ると,平嶋氏の記述から受ける印象とはだいぶ異なります.
ひと言でいうと,思わず「笑っちゃう」ような本でした.

まず,文字が「亀の子文字」・「亀甲文字」((^^;).
これは,伝説の文字ですね.ヒットラーが自国の科学の発展を阻害するとして,使用を止めさせたという伝説の文字で印刷されています(本当は,軍事的な命令が伝わりにくいので止めさせたらしい,という話もあるようです.どっちにしても「伝わりにくい文字」なのです).

ラテン語を理解する前に,ドイツ語を理解して,そのために「亀の子文字」を読めるようにしなければならない((^^;).大回りですねえ.
なんか,以前ヒットしたトム・ハンクス主演の“謎解き映画”を見ている気分.あっちこちに,無数の“落とし穴”がある((^^;).面白いっちゃあ,面白い(が,こんな物を引っ張り出してきて,「学名そのものの普及」ができると考えているのなら大間違い.ですね).

本当に,この本が学名を理解するために必読の書だというなら,英訳本ぐらいあってもよいかと思いますけど,見あたりませんね.ないのは,たぶん意味がないからでしょう((^^;).
ラテン語の発音とも,その元になっているギリシャ語の発音とも違うことが,ランダムに侵入しているというんでは,相手にされないのも不思議はないですね.


この本は,基本的には,動物分類学の本です.たぶん,当時知られていた動物の学名が網羅されているのでしょう.それだけの物だという気がしますが…(大学関係者は独逸語・佛蘭西語を有り難がる傾向はあるようですけど,それはむかしのことだと思ってた(^^;).
学名に,いわゆる“長母音”が使われているので「ラテン語の読み方が書いてある」と評価されたんでしょうけど,それは普通のラテン語辞典に出てるんじゃあないでしょうかね.
(違うな.学名は「ラテン語」といわれてますけど,実際には,ほとんどが「ギリシャ語」のラテン語風つづりですからね.ラテン語辞書には出てないものの方が多いのですよ.)
最初に必要なのは,ギリシャ語-ラテン語辞典でしょうね.


もう一つ.「学名の意味が示してある」ということだったんですが,これも見てみてガッカリ.
学名の語根になったギリシャ語がギリシャ文字で示してありますが,あくまで,語根であって,使用されている多様な語尾変化などが示されているわけではない.つまり,「学名の意味が示してある」わけではない.
ギリシャ文字の横に「亀の子文字」が付属していますので,これが単語の意味を示しているのでしょうけど,亀の子文字なので,まず読むのが大変.読める部分を乏しいドイツ語の知識で比べると,確かにそうらしい((^^;)

なんで,こんなアホみたいな迂遠な苦労を強いるんでしょうかね.
要するに学者の自己満足であって,必然的に科学のオカルト化に加担しているに過ぎないという気がします.

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