2009年11月29日日曜日

「オウム」の混乱

 
 恐竜プシッタコサウルス[Psittacosaurus Osborn, 1923]は「鸚鵡(嘴)龍」と漢訳されています.

 プシッタコ・[psittaco-]はラテン語の語根で,「オウムの・」の意味.・サウルス[-saurus]と合成されて,「オウムの龍」.漢字で書けば「鸚鵡龍」となります.漢訳で挟まれている「・嘴・」は,この恐竜の「吻部」が「オウムの嘴」状だったからで,《意訳》になります.

 実は,今,恐竜学名の意味についての辞典をつくっていて,けっこう夢中になってるので,ブログ更新が進んでいません.正確に言うと,「辞書の展開」関連で,昔つくった「学名辞典」の整備を進めている所なんです(もうすぐ,実用レベルに達するはず).
 最近のブログ記事は,実は,それに関係したモンばかりです.

 で,「プシッタコ・」ですが,これが,非道く混乱している.
 正確にいうと,「オウム類」の学名の和訳が混乱しています(それだけでなく,分類自体も相当混乱しているようですが,ここでは立ち入りしません.というか,門外漢である私には言及不可能なようです.ただし,「こんなの(門外漢には理解できない概念)が科学といえるか」という気はする(-_-;).

 ラテン語の「psittacus」は,通常「オウム」と訳されていますが,プシッタクス属[genus Psittacus]は「ヨウム属」です.「ヨウム」は「洋鵡」が語源らしい.
 一方,「オウム属」の学名は「genus Cacatua Vieillot, 1817」.「オウム」は「鸚鵡」ね.
 これだけでも,大分混乱してますね.

 「ヨウム属」は,アフリカ中西部原産の全長30cmぐらいの灰色の鳥.調べた限りでは,一属一種(三亜種ぐらいあるらしい).
 「オウム属」とは,オーストラリア・東インドネシアおよび周辺の島々に生息する直立性の頭冠羽を持つものをいいます.全長40~50cmぐらいの白色の鳥.調べた限りでは一属一種(四亜種ぐらいあるらしい).和名は「キバタン(黄芭旦)」(エッ!,「オウム」じゃあないの!).
 属名の「cacatua」は,マレー語の「kakatua」から.
 英語の「cockatoo」は,マレー語からオランダ語化した「kaketoe」を経由しています.

 なお,もうひとつの「オウム」を意味する英語「parrot」は,フランス語の「perrot」からで,これは「Pierre (Peter)」《男性名詞》の《縮小語》です.


 さて,ここからが(もっと)問題.

 family PSITTACIDAE Illiger, 1811は,通常「オウム科」と訳されていますが,これは「オウム類」を一科とした場合.
 family CACATUIDAE Gray, 1840を成立させたときは,family CACATUIDAE Gray, 1840 =「オウム科」で,PSITTACIDAEは「インコ科」と訳されています(インコは「鸚哥」ね).
 二科に分離せず,一科の場合はPSITTACIDAEが優先され,この場合は「オウム科」と訳される(!).

 さて,order PSITTACIFORMES Wagler, 1830は,「インコ目」とも「オウム目」とも訳されていますね(!!)…(いわせてもらえれば,「インコ形目」とすべきです).

 なお,インコを意味する英語「parakeet」はフランス語の「paroquet」,イタリア語の「parrocchetto」,スペイン語の「periquito」などからきたといわれているが,語源は不明のようです.

 混乱は整理されるべきなんだろうとは思いますが,たぶん,今の日本には「鳥類の分類学」なんてのは成立してないんだろうと思います.基礎科学には金をかけない国ですからね.


 こういった混乱は,(当然)その筋の世界だけでなく,一般市民の世界にも影響します.
 order PSITTACIFORMES Wagler, 1830を「インコ形目」ではなく,「インコ目」と訳すから,これに含まれる生き物は全部「インコ」になってしまう.一方で,「オウム目」とも訳すから「オウム」とも呼ばれる.
 一般市民は(学名を,というよりは“科学者”を盲信してるから),オウムとインコは同レベルで違うものだと思うから,違いを知ろうとして,混乱を深める.

 オウムは,オウム属に含まれるものだけ,つまりは,「キバタン(黄芭旦)」のみを「オウム」と呼ぶべきですね(亜種があると思う人は,それも「オウム」に含めればよい).

 プシッタクス属[genus Psittacus]は「ヨウム属」をやめて,「インコ属」にすべきです.同時に,「インコ属」にも「オウム属」にも含まれないものを(つまり,インコでもオウムでもないものを),「インコ」や「オウム」と呼ぶのを止めなければなりませんが….

 なお,「~インコ」,「~オウム」のほとんどは分類に関係なく,「商品名」と化しているものが多いようですから,これにだまされないように.
 こういうものはたくさんあって,たとえば,「ガラス」と「クリスタル」は相反する概念なのに,「クリスタル=ガラス」なんて言葉がある.
 似たようなことで,「マイナス=イオン」なんて,科学を装った「商品名」(実態があるのかどうかはわからないけど)もあります.
 み~~んな,「地質学者」をやめて「地球科学者」になったのに,「地質学会」を名乗ってる学会もありますしね~~.

 

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