2009年7月1日水曜日

辞書の展開(4)

 
●旧体系と新体系の対比(1)根っ子のところで

(引き続き,「辞書の展開」なんですが,今回からラベルに「古生物一般」を付け加えます)

 たとえば,Carroll (1988)には,以下のような分類体系が載ってました(Appendixを和訳および編集しました).

 哺乳綱(Class MAMMALIA Linnaeus, 1758)
  ├原獣亜綱(Subclass PROTOTHERIA Gill, 1872)
  ├異獣亜綱(Subclass ALLOTHERIA Marsh, 1880)
  └獣 亜綱(Subclass THERIA Parker et Haswell, 1897)

 たとえば,このうち「原獣亜綱」はどうなっていたかというと….

哺乳綱(Class MAMMALIA Linnaeus, 1758)
 ├原獣亜綱(Subclass PROTOTHERIA Gill, 1872)
 │ ├単孔目(Order MONOTREMATA C.L. Bonaparte, 1837)
 │ │ ├カモノハシ科(Family ORNITHORHYNCHIDAE Gray, 1825)
 │ │ └ハリモグラ科(Family TACHYGLOSSIDAE Gill, 1872)
 │ │
 │ ├三錐歯目(Order TRICONODONTA Osborn, 1888)
 │ │ └(略)
 │ │
 │ └梁歯目(Order DOCODONTA Kretzoi, 1946)
 │   └(略)
 :
 ├異獣亜綱
 └獣 亜綱

 現在は(印刷物は,入手できるころには,もう古くなっていますので,THE TAXONOMICON を利用させてもらいます)….(なお,これに近いものとして,目名問題検討作業部会(2003)が公表されています.こちらは,現生生物中心で概略のみ.しかも,古生物については省略が多いので,参考程度に使いました.「和訳」に関しては「不自然」なところもあるので,そこは自前の訳語を使いました.)

哺乳綱(Class MAMMALIA Linnaeus, 1758)
 ├原獣亜綱(Subclass PROTOTHERIA Gill, 1872)
 │ ├広足目(Order PLATYPODA (Gill, 1782) emend.)
 │ └速舌目(Order TACHYGLOSSA (Gill, 1782) emend.)
 │
 └獣形亜綱(Subclass THERIIFORMES (Rowe, 1988) emend.)
   ├異獣 下綱(Infraclass ALLOTHERIA (Marsh, 1880) emend.)
   ├三錐歯下綱(Infraclass TRICONODONTA (Osborn, 1888) emend.)
   └完獣 下綱(Infraclass HOLOTHERIA (Wible et al., 1995) emend.)
     ├…
     └…

 まず,原獣亜綱に入っていた三錐歯目と梁歯目が消えています.
 どこへ行ったかというと,三錐歯類は獣型亜綱-三錐歯下綱へ,梁歯類は哺乳綱から外されて哺乳類形類(MAMMALIAFORMIS Rowe, 1988)中の梁歯目へ.哺乳類形類はランク名がありませんが,哺乳綱とその他雑多な哺乳類様生物がまとめられた,「綱」より上のランクです(このあたりの表示法が私には理解できないのですが,「哺乳綱」以外は「Class incertae sedis =綱,分類位置不詳」として強引に理解しておきます).

哺乳類形類(MAMMALIAFORMIS Rowe, 1988)
 ├…
 ├梁歯目
 ├…
 └哺乳綱
   ├原獣亜綱
   └獣形亜綱
     ├…
     └…

 原獣類には,広足目と速舌目が与えられていますが,これは実は「単孔目-カモノハシ科」と「単孔目-ハリモグラ科」のこと.したがって,ここには単孔類しか残っていないことになります.それでは,「単孔亜綱(Subclass MONOTREMATA)」にすべきだと思いますが,なぜか原獣類という言葉が残っています.

 日本哺乳類学会種名・標本検討委員会 目名問題検討作業部会(2003)ではMcKenna & Bell (1997)を引用していますが,それらもこれとほとんど変わりがありませんので,まあ,新体系への改訂として現在進められている一般的なものと見なしていいでしょう.

 なお,THE TAXONOMICONのデータを私流に使いやすくするために書き直していたのですが(と,いってもコピペしてmy formatに修正するだけですが),膨大な分類群の数にあきれるとともに,たくさんの生き物が地球上に生まれそしてほとんどが消えていったんだなあと,妙に感動してしまいました.


【参考文献】
Carroll (1988) 「Vertebrate Paleontology and Evolution」( W. H. Freeman and Company)
THE TAXONOMICON:http://taxonomicon.taxonomy.nl/
日本哺乳類学会種名・標本検討委員会 目名問題検討作業部会(2003)「哺乳類の高次分類群および分類階級の日本語名称の提案について」(哺乳類科学,43巻127-134頁)

 

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